お食事処「おかず」

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俺は「長瀬麻奈にアイドルになって欲しくなかった。」-アニメ IDOLY PRIDE ショートレビュー-

 

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めちゃくちゃ病んでるよ。

 

今の感想はこれが全て。

アニメIDOLY PRIDE、僕の中では素晴らしい駄作と思ってます。これは悪い意味も良い意味も全てひっくるめてそう感じた。

ただ、ここでは長瀬麻奈と牧野航平の数奇な運命についてを述べながらレビューしたいと思う。

 

そもそも幽霊長瀬麻奈ってどういう存在なのか

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人の死という概念があるアニメでは、ある1人だけが特別に幽霊として存在する展開は正直多い。

だが、「アイドルの成長を描く特異能力が存在しない世界での物語」では珍しい。ってか前例を知らん。

 

言い方が悪くなるが、ここまで可愛く人気があるなら殺すより引退して、伝説としていつでも使えるようにした方が運営方針としてもやりやすい。(復活ライブで姉妹が歌うとかの方が優しい世界になるし。)

でも明確に故人にした理由はなんだろう。

 

それは長瀬麻奈が死んででも想いを伝えたいという気持ちがあったからだと思う。

説明します。

 

好きと言えなかった後悔

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牧野航平にとって、長瀬麻奈は特別だった。これは間違いないと思う。反対に長瀬麻奈にとっても牧野航平は特別な存在だった。

もし、長瀬麻奈が特別可愛いわけでもなく、天才的なアイドルでなければ、この2人は卒業までに恋人になっていたと思う。これは確信じみたものが僕の中にはある。

 

根拠として、

長瀬麻奈が旅立つ最後の瞬間に牧野航平に伝えた「君を好きになってよかった」というセリフはアイドルとしてのセリフではないから。という点がある。その根拠は言うまでもなく、彼女の口づけにあるだろう。

3年前に時を止めた彼女の、1人の女の子として、想い人に込めたセリフだったと僕は思う。

 

アイドルになった長瀬麻奈はアイドルになってから死ぬまでの2年間、アイドルとして、牧野航平に気持ちを伝えることは許されなかった。

幽霊として存在し、サニーピースと月のテンペストが優勝するまでの3年間、長瀬麻奈はこの世に存在しない異端の存在として、牧野航平に君が好きと伝えることは許されなかった。

つまり、彼女はアイドルになってしまったせいで、1番大切な彼に想いを伝えられなくなってしまったのだ。

 

それ以前にアイドルとマネージャーの恋は禁断。

「そう」してしまった長瀬麻奈が結ばれるためには、「アイドルじゃなくなる」しか無かった。

 

その瞬間は突然に訪れた。

自身の死によって。

逆に言えば、彼女は死ぬ事で牧野航平と結ばれることが許される。ということになる。

 

彼女の願いは「牧野航平をトップアイドルのマネージャーにする」という点があったことはもちろんそうだが、彼女のやり残したのことは本当にそれだったのだろうか?

長瀬麻奈という、もう「この世に存在しない存在」と確かにこの世に存在する牧野航平は絶対に結ばれることはないから。その自覚は長瀬麻奈にも当然ある。

だから彼女の願いそのものは、恐らく彼女が幽霊として存在する理由に紐づいてない気がする。

 

さくらが歌い方を変えてしまったことによって消失しかけた彼女の表情で、咄嗟に走り出す早坂芽衣を引き止めた牧野航平をみて「私の知ってる牧野君」といったのだ。もう自分は優先されるべき存在でないということは彼女自身にも理解ができていた。

だが、自分は優先されるべき存在でないという自覚があるほど、自分の今について客観的に見つめることができている長瀬麻奈を幽霊として現世に留めてしまっていたほどのものは一体何なのか?

 

長瀬麻奈の動機は

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長瀬麻奈が報われなかった、牧野航平は最後に絶対に忘れられない呪縛を与えられた。結果だけ見ればそうなるが、このストーリーが運命として持ってしまった悲しい事実がある。

 

・長瀬麻奈は容姿、性格、声、雰囲気を含め、天性のアイドルの才能があった。

・同じように長瀬琴乃にも才能があったが、それは姉とは違い、可愛いアイドルではなく、美しい、かっこいいアイドルの才覚だった。

・長瀬麻奈がアイドルにならなければ死ぬことは無く、牧野航平と結ばれることができた。

・長瀬麻奈がアイドルになったから長瀬麻奈は死亡し、長瀬琴乃と川咲さくらがアイドルになった。

 

つまり、長瀬麻奈がアイドルになった時点で、死ぬ事が確定し、牧野航平と互いに生きた状態で結ばれることがなくなり、眠ったままになるはずだった長瀬琴乃のアイドルの才覚を目覚めさせ、川咲さくらの命を繋ぎ止めた。

ifの選択肢として、長瀬麻奈がアイドルにならなければ、牧野航平と結ばれることができた。その場合の代償として長瀬琴乃もアイドルになることはなく、川咲さくらが快復、生存できた確証はなかった。

というどちらかの選択肢しかなかった。

特に川咲さくらが生存できたかどうかはかなり怪しい。

一般的に心臓移植は3年ほどの待ち時間があるが、長瀬麻奈が死亡してからの移植のタイミングが極めて早く、移植から3年経った現在でも通院していることから、川咲さくらの病状が非常に悪かったことが伺える。

また、長瀬琴乃がアイドルを志したのは、姉への贖罪の意があり、「姉が立ち、そこで歌うはずだった『Song for you』を決勝の舞台で歌う」という点が原点にあったこともあり、長瀬麻奈がアイドルでなければ長瀬琴乃はアイドルにならなかったのは間違いないだろう。

IF:長瀬麻奈がアイドルにならない、長瀬琴乃がアイドルになる

という展開があったとしたら、長瀬琴乃が伝説のアイドルになっていたと思う。

 

結果的に、長瀬麻奈は図らずしも前者を選んでしまったが、「牧野航平と結ばれる」という願いだけは、旅立つ間際に半ば強引に叶えてしまったのである。

その本来死んだ時点で伝えることが叶わなくなったはずの想いを伝えることができるという奇跡を生み出してしまったのが、偶像として、この世にとどまった幽霊の長瀬麻奈という存在だった。

 

怪奇は忘れられると存在意義を失う

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日本怪談における原則的なルールのひとつとして、怪異や幽霊などは、忘れられると存在できなくなるというものがある。

作中では「時間」と称したが、正確には今まで作中で「伝説」とされた長瀬麻奈は、ある意味ほぼ全ての人間が、彼女に楔をうたれていた。

これは内容を見ればわかるが、回を追うごとに「彼女に越える」「彼女がいれば」「彼女の為に」といった長瀬麻奈を忘れられない、忘れることが出来ないあらゆる人物が、彼女の呪縛から解き放たれていく姿が描かれる。

それを決定づけたのが長瀬麻奈の心臓を持っていた川咲さくらが歌い方を長瀬麻奈のものでなく、自分のものに変えた時だった。その瞬間、牧野航平は状況をこう表現した。

 

「麻奈の心臓がさくらの心臓になろうとしている。」

 

これはある種元は逆だと思っていて、

長瀬麻奈の心臓は移植された時点で川咲さくらを長瀬麻奈と同じように神格化させようとしていた。それを川咲さくらが川咲さくらの心臓にとどめた、というのが正確な表現だと思う。

 

ここから急速的に長瀬麻奈の魂は、牧野航平が見えなくなってしまうほど存在を失っていく。

これは、正確には心臓が自分のものでは無くなったからではなく、この時点で、多くの人が長瀬麻奈への蟠りを無くしていたからだと感じた。

この辺りでひとつの仮説に至る。

長瀬麻奈がこの世に魂の状態で存在していたのは、たくさんの人が長瀬麻奈というアイドルをまだ忘れられていなかったから、つまりみんなにとって偶像だったために、彼女の意志とは関係なく、この世に留まってしまったと考えるのが自然だと。

つまりは、皆が長瀬麻奈を過去の存在にできたことによって、物語終盤では、長瀬麻奈がこの世に存在する理由が徐々に失われ、徐々に消える。

 

そして同時に最後の瞬間。琴乃が彼女を視認、声が聞こえるようになる。

長瀬麻奈自身が忘れることができない牧野航平と長瀬琴乃の2人が彼女を存在させる唯一の理由になった。

そして、彼女の幽霊を視認できるトリガーは、早坂芽衣というイレギュラーを除けば、もしかすると、長瀬麻奈自身が伝えられなかった明確な想いがある人間だったのではないだろうか?

琴乃が最後に視認出来たのは、まだフワフワして自分でもわからなかった琴乃への想いが、明確になったからと考えると自然だろう。

 

そして、偶像としてこの世に縛り付けられた長瀬麻奈は、牧野航平に好きと伝えることで偶像から一人の女の子に、長瀬琴乃にまだまだ長い道を一緒に歩くことを告げることで偶像から一人のお姉ちゃんになることで、偶像=アイドルとしての存在意義を消失。誰からも見えなくなるという形で旅立った。

 

というのが個人的な幽霊 長瀬麻奈の考察である。

 

 

牧野航平は幸せだったか?

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幸せじゃないよ。バカ。

牧野航平は絶対に幸せじゃなかった。断言できる。

長瀬麻奈というめちゃくちゃ可愛い女の子で、誰も追いつけない天才アイドルのマネージャーになれるというのは正直美味しいだろう。

彼女の願いは「トップアイドルのマネージャーにすること」

でも、本心は「彼と結ばれること」だったと思う。

正直アイドルさえ建前で、結ばれたいと思っていたと思う。

ただ、牧野航平は口にした。

「俺はマネージャーだ、だから…ずっと…」

 

ずっと『言えなかった』

 

『麻奈が好き』と。

 

マネージャーとしての『プライド』として。

 

 

好きな人に好きって伝えられないことが苦しくない人間は居ない。

 

彼女は願いを叶えた。そして旅立った。

彼女は最後に、牧野航平だけの偶像になった。

アイドルとしての『プライド』にかけて。

 

牧野航平は苦しんでしかない。長瀬麻奈は死んでしまった。死んでしまったけどここにいた。そんな長瀬麻奈もいなくなってしまったけど、その最後の瞬間にお互いの気持ちが繋がった。でももう二度と会うことも話すこともできない。

彼にとって、長瀬麻奈との別れはあの教室のあの瞬間だった。

 

突然の別れじゃなく、最後に彼女の笑顔を見た彼は、もう長瀬麻奈を忘れることは出来ないと思う。

 

僕が牧野航平の立場として、好きな女の子が死んだ事実に、幽霊として近くにいてくれることで向き合わずに済んでいたのに。

 

そんな幽霊の彼女と二度と触れ合うことも話すことさえできないなんて。

 

人の死には誰しも向き合わないといけない。

 

でも。

 

2年間、許されないアディショナルタイムを得た代償が残酷すぎるよ。

 

総括

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正直このアイキャッチ通りというか、後ろの2人以外が飾りに近かったことだけ悔やまれる。

長瀬麻奈がどれだけ凄かったのかも伝わりずらかった。

「やり残したのは、ひとつの夢」

これは正直適切でないというか、実際ひとつじゃないと思う。少なくとも本当のひとつに隠した偽りのひとつに近かったとおもう。

 

長瀬麻奈の物語、長瀬麻奈の「IDOLY PRIDE」だった。

時間があればもっと上手く作れたと言うが、実際はもっと実体としては「長瀬麻奈に寄せすぎた」というのが近い。まぁ牧野航平の目線ではそれほどまでに他のアイドルが薄く感じるほど長瀬麻奈の存在が大きかったといえばそれまでだが。

 

そうやって見ると、幽霊としての長瀬麻奈の行動原理は、アイドルになる瞬間から死ぬことを察してたようにも思えてしまう。(真偽は分からないが。)

 

オタクとしてはプロデューサーとしての側面が強い僕的には、「今のアイドルを見てほしい」という気持ちが大きい。

 

だからこそ。

長瀬麻奈がアイドルにならなければ、今俺はこんな気持ちになることは無かった。

 

決勝に行くタクシーに乗らなければ。

 

長瀬琴乃がいなければ良かったと言わなければ。

 

牧野航平がマネージャーになることを良しとしなければ。

 

 

長瀬麻奈がアイドルにならなければ。

 

 

 

牧野航平が自分の中の長瀬麻奈と決着をつけ、誰かと幸せになれることを願いながら、サニーピースと月のテンペストがアイドルの頂点へとたつ日を願い、この駄文の〆とする。

 

 

P.S

ラギヒヘ。

曲がった俺に、この作品を勧めてくれた感謝気持ちと、俺にこの感情を背負わせた憎しみも込めて。

 

贈るよ 「ありがとう」。